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2008.08.11
「崖の上のポニョ」というか宮崎駿というプロジェクトのわかりにくさ
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「崖の上のポニョ」めでたく個人的ないやな予感は大外れで、無事にヒットしているようです。で、ポニョは宮崎駿の遺作だか、遺言状という陰謀も渦めいているそうです。
リンク: 「崖の上のポニョ」は宮崎駿が息子・宮崎吾朗にあてた遺言状.
「吾朗のような子を作らないためにも」というのは、宮崎吾朗氏が果たさなかった「約束」を、子供たちに果たしてほしいという願望のようです。
相変わらずひねくれているというか、なんというか。
これ、のまさんはたぶんわかってて書いてないんじゃないかと思うことがあるので、それについて、のまさんが書く前に書いちゃおうと思います。
それは、うっかり遺言状を書いてしまったということは、要するに宮崎駿さんは「後継者を育てることができなかった」ということなんじゃないかと思うわけです。
その育成不足を宮崎さんの能力不足って考えるのは簡単なんですが、どうもそうは考えられないと思います。
で、その答えはやっぱり宮崎映画の中にあると思うわけです。で、それについては、もうたけくまさんがそれこそ好き放題書いているので、そこから引用します。
最重要ポイントだと思うのは、以下の2点。
リンク: たけくまメモ : パンダとポニョ(2).
「今、ラストシーンを考えてる最中なんですよ。まだシナリオが出来てないんです。イヒヒヒ」
リンク: たけくまメモ : パンダとポニョ(1).
長年作品を見続けてきた俺からすると、宮崎アニメは日本アニメの中でも例外的存在で、アニメ界のトレンドとはまったく関係なく作られていたし、作品が当たるようになってもほとんど「亜流」が出ないという意味でも例外的です。ヤマト(松本アニメ)やガンダム、大友克洋のパチモンは死ぬほど見ましたけど、『トトロ』や『魔女宅』、『千と千尋』のパチモンってありましたかね?
つまりね。もうたけくさまさんも書いているように、この宮崎駿のわかりにくさの正体は、プロジェクトマネージメントの問題なんですよ。
他の人が真似ができないことをやり続けるのは、すごいことだし、すばらしいことだけど、それが商業的にも成功してしまうと、それはそれで別の問題を発生させちゃうってことですね。
ところで、優れたサービスのファウンダーでありながら、最近そのサービスを離れた人の代表にStewart Butterfieldという人がいます。ラッキーなことに、そのインタビューが残っています。
リンク: Flickr創設者S・バターフィールド氏インタビュー--Flickr誕生からヤフー退職まで:インタビュー.
経営は本当にたいへんでした。Flickrを立ち上げるアイデアは、2003年初めにGame Never Endingから生まれました。2002年、私たちはゲーム制作の会社を始めました。試作品を作り、数千人にテストしてもらいました。
リンク: Flickr創設者S・バターフィールド氏インタビュー--Flickr誕生からヤフー退職まで:インタビュー.
私たちはこれまでの成果をほかのものに応用しようと考えました。Flickrのアイデアがひらめいたのは、ニューヨークで食中毒になったときでした。今見られるようなFlickrとは違い、ひどいもので、実際にはうまくいきませんでした。
リンク: Flickr創設者S・バターフィールド氏インタビュー--Flickr誕生からヤフー退職まで:インタビュー.
ここにも同じブランドの問題があります。しかし、人々が、アイデアではなく、人に投資するのには理由があります。アイデアは変わりやすく、実際、変わることがあるからです。ゲームからFlickrへの変化だけでなく、Flickr自体でも、さまざまな変更を行いました。現在のFlickrと当初のもので共通することはほとんどありません。
このインタビューで大事なポイントは、Flickrはもともと写真共有サイトとしてスタートしたサービスなんかじゃなかったってことです。つまり、エンディングの決まっていない映画と同じです。
こんなこと、普通はできません。でも、なぜか優れたサービスにはこういう逸話が多い。それはなぜか?
それはもう実に簡単で、プロデューサーでも監督でもファウンダーでもなんでもいいんだけど、立案者がまずいて、その立案者が実行者として、プロジェクトのスケールと納期のことを考えなければ、ひとりでプロジェクトを完遂できる能力を持っている場合に、こういう夢のようなことが現実になりやすいわけです。
で、そんなプロジェクトに後継者なんかできるわけがない。そんなことは普通の人間はやれたと想像できてもやらないし、やったら壊れるからです。
で、そんな困った人たちにとっては、じっくり考えてから実行するよりも、考えながら実行した方が、結果的に意図したものと違う結末になったとしても、いい作品(プロジェクト)となることを経験で知っているからに他なりません。
小説というジャンルでは、猪瀬直樹といういいサンプルがいますが、そこは基本的にひとりで実行するからこそできる芸当だし、猪瀬さんもいい大人なので、毎回はやりません。
リンク: キーワードに敏感になっていきまっしょい。.
たとえば、太宰治について書かれたピカレスクは、読後まずはとにかく「黒い雨 」が読みたくなくなる本である。
リンク: フェルマーの最終定理の面白さとは猪瀬節である。.
当初とは思わぬところに出てしまっても、それが自然な辺り前の流れであれば、大抵の場合おもしろくならないわけがないわけです。 テーマがずれているとか言ってる暇があったら、その本にあるホントのおもしろさを楽しめばいいわけですからね。
ということで、そろそろオチをつけたいのですが、プロジェクトマネージメントの問題を唱えるはずののまさんには、ぜひ黒澤明監督の遺作である「まあだだよ」と黒澤 VS 宮崎の対談集もおすすめしておきます。
とここまで書いてきたところで、このエントリーも突然に想定しない方向に向かいます。
宮崎駿がホントにこの「崖の上のポニョ」を自分の最後の作品として考えているのであれば、所ジョージが声優として出演しているのは、完全に黒澤明へのオマージュですね。「まあだだよ」の主演(ホントは助演だけど)は実質所ジョージですからね。
ということで、私はこの「崖の上のポニョ」は黒澤明へのオマージュなのではないか?」という仮説を秘めて、再来週にでもポニョを見にいきたいと思います。
【みたいもん!とのまのしわざにおける「崖の上のポニョ」談義】
- の: 「崖の上のポニョ」は宮崎駿が息子・宮崎吾朗にあてた遺言状.
- み: 「崖の上のポニョ」というか宮崎駿というプロジェクトのわかりにくさ.
- の: スタジオジブリ鈴木敏夫と宮崎駿的アジャイル映画開発.
- の: 『崖の上のポニョ』は15万枚かけた動く絵本.
- み:「崖の上のポニョ」は引退作がうっかり最高傑作になってしまった映画である.
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投稿:by いしたにまさき 2008 08 11 01:11 AM [映画・テレビ] | 固定リンク
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