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2012.08.10
『おおかみこどもの雨と雪』、わかりやすい主役の不在というむずかしい課題に挑戦した結果はあったのだろうか?(ネタバレあり)
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早くもヒット作となっている「おおかみこどもの雨と雪」、サマーウォーズのときの反省から、初日に見ようと思っていたのですが、やっと見てきました。
リンク: 映画「おおかみこどもの雨と雪」.
いくつかアップされている予告編の中では、下のものが、いちばん実際の映画と印象が近いと思います。
ということで、ここから先はネタバレになります。
ーーー
予告編を事前に見ていたときから、妙な胸騒ぎは実はあったんです。それはどういうことかというと、「おおかみこどもの雨と雪」は、なんかむずかしい映画になっているかもしれないという予感です。
そして、それはいきなり的中することになります。
ナレーションがはじまり、その声の主が花ではなく、雪であることに気づいたとき、私はホントにドキリとしました。
ナレーション役が花ではなく、雪であり、そこでいきなりこの物語について「自分たちが生まれてから12年の物語」ですと言い切ったのです。
これだけで、以下のことが推測できます。
- 恐らく雪にはすでに子供がいる
- 花は他界している
- 雨の行方は知れない
いやあ、これは困ったことになったなあと思っていると、いろいろなことが起きるのですが、実は物語としては、すごくシンプルであることを理解していきます。
リンク: 『おおかみこどもの雨と雪』への賛辞と、この映画の変なバランスについて(ネタバレあり) - 新刊書籍・新作映画を語る.
この映画は全てのストーリーがこの親離れのポイント、運命の一夜、爆心地に向かって進んでいると言っても過言ではない。
これは、まさしくそのとおりで、花の恋愛物語なんてものは、ホントにびっくりするほど描かれない。
それどころが、花の恋愛物語としては、なんというか、ほぼ最悪とも言える展開さえ見せる。とはいえ、あの冷酷なシーンは、社会の現実がつきつけられる、とてもいいシーンだと思います。
この辺で、花は主役ではないのだろうなという予感はやってきます。では、その娘である雪が主役なのかというと、どうもそうではない。
これはどういうことなのだろうと思っている間に時間は過ぎていきます。そして、どこかでおおかみというものと向かいあう女性が主役であることに気づきます。
そう主役は、花でも雪でもなく、花と雪のセットなのです。
つまり、
なんだかんだで、時かけにしてもサマーウォーズにしても、1人の女の子と世界の話なわけで、その女の子が中心軸となった「Change the World」の話になっています。
ところが、今回の場合、花と雪のセットが中心軸。
だから、本来1人の女の子に収斂されるはずのいろいろな劇中の役割が、花と雪のそれぞれに振り分けられてしまっています。
わかりやすいところでいうと、花は一方的におおかみの秘密を告白され、雪は一方的におおかみの秘密を告白する。細田監督は、そのどちらの告白も描きたかったのだとも想像がつきます。
また、役割を2つの世代の女の子に振り分けた結果、そこに内包される要素としてのネタが、人の一生分の種類になってしまっています。これは、2時間に満たない映画には、要素として多い。
ところが、今時の映画なので、アクションシーン的なものは、入れ込まないといけない。これでますます時間がなくなる。
そして、これまでの細田作品には、ほとんどなかった「死を明示させる演出」が何度か出てきます。結果、涙的にぐっとくるシーンで、登場人物が実際に泣いているという展開にどうしてもなってしまうのです。
このおおかみおとこ!1回ぐらい避妊しろよ!っていう感想は、もちろん冗談なのだけど、なぜおおかみおとこが避妊しないのかを、こちらに納得させてくれる時間が欲しかったわけです。その演出がないのも、その演出にかける時間のなさが原因と言っていいでしょう。
サマーウォーズでアニメーション監督ではなく、アニメーション作家になった細田守監督の作家性が、この映画に強い影響を与えていることは、以下のことからもわかります。
リンク: おおかみこどもの雨と雪 - Wikipedia.
細田守監督による長編オリジナル作品第2作である。細田は本作で初めて自ら脚本も手がける。
その作家性が、映画のなにかの邪魔をしたと言い切るのは、早計です。演出のうまさ、その場面場面を見せきるというすごさは、さらにすごみを増しているだけに、そんなことを考えてしまうのです。
主人公の気持ちに思いを馳せるという、物語に観客が入り込む映画の定石中の定石を捨てるリスクを超えるほどの何かを、私は発見することができませんでした。
さて、おおかみこどもの雨と雪のことを書いていたら、思い出した映画があります。今は亡きリヴァー・フェニックス主演の「旅立ちの時」です。
「おおかみこどもの雨と雪」を見て、この映画を親離れ・子離れの映画と受け取った人には、ホントこの「旅立ちの時」をおすすめします。
この映画も、親離れ・子離れの最終シーンに向かって、物語は進行します。
しかし、最後のシーンでは、主役である子供が1人残り、親がその場から立ち去ります。この映画の舞台が、アメリカだからという事情が、たしかにそこにはあります。この映画のこの物語は、日本では成り立たないでしょう。
でも、この下に貼った「FIRE AND RAIN」が、いかに美しいシーンなのかを、映画の中で見て欲しいのです。
やっぱり、絶望と希望が共にあるからこそ、人生は素敵なのだと思います。
いつかはくる約束された時間としての「親離れ・子離れ」。それをいかに映画的に料理するかという点において、「旅立ちの時」という映画は一級品です。
映画なんて比較するものじゃないし、その映画単体で良ければいいものなのですけど、子育てと親離れ・子離れの二兎を追ってしまったのは、2時間という制限のある映画というフォーマットのことを考えると、それはちょっと失敗だったのではないかな。
きのうからさっきの「FIRE AND RAIN」を20回ぐらい見て、毎回泣きそうになっている私は、そう思うのです。
ただ、それでも、ここまで書いてきて、もう1回「おおかみこどもの雨と雪」を見てみないといけないと思い始めています。
やっぱり、細田守監督すごい監督ですね。
いや、小説版を読むべきなのかもしれないですね。うーむ、どうしようかなあ。
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投稿:by いしたにまさき 2012 08 10 10:30 AM [アニメ・コミック] | 固定リンク
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ネタバレは含んでいないと思いますが、観た人にしか通じない内容ですので、観てからお読みください。
「おおかみこどもの雨と雪」という作品は、今時珍しいほど、観る人によって賛否が大きく分かれていま...... 続きを読む
受信: Aug 19, 2012, 5:02:53 PM