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2015.04.20
藤井太洋「ビックデータ・コネクト」は、2015年のベスト本であり、ITにかかわるすべての日本人が読むべき本である
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ビックデータ・コネクト読み終わりました。まずは、現時点での作家・藤井太洋の最高傑作だと思います。
すごいです。下馬評もすごかったんですが、それをはるかに上回る内容でした。テーマ、モチーフ、社会性、物語、読後感、どれを取っても文句なし、超一級品です。
改めて、藤井太洋という作家のすごさを見せつけられましたし、藤井太洋という作家の作家性が、SFではないがために、実はいちばん色濃く出ている作品なのだとも思います。
社会批判も、個人の人生観・倫理観、そして職業意識にまで踏み込む全部入りっぷり、それでいて、ミステリー小説的でもあるし、推理小説的でもあるので、物語が加速する中盤を超えると、まさに一気に読み終えてしまいます(だからKindleで読むのも向いてます)。
それを支えるのは、すでに指摘されているように、まずは過去にインタビューでも語られている藤井さんの職歴です。
リンク: 93冊目 「ビッグデータ・コネクト」 藤井太洋 : アルカンタラの熱い夏.
小説内には、現実世界を騒がせた事件やサービスやIT技術がたくさん登場するが、それが単なるパッチワークにならないのは、著者が体験してきたIT土方のリアリティがあるから。
もしこのようなプロットやトリックを思いつく人が藤井さん以外にいたとしても、藤井さんのようには作品に魂を込められなかったろう。緻密な構築物の中に、切れば血の出る、生々しい叫びが塗り込められていて、ぞっとする迫力を感じさせる名作だった。
で、ここから先、この記事は個人的な独白も含めた内容になっていくので、それを書き始める前に、はっきり言っておきます。
うっかりこの記事を見てしまって、もし仕事が少しでもITにかかわっているのであれば、いいからすぐに買って、すぐに読め!責任は私が取る!
そのぐらいに、この藤井さんのビックデータ・コネクトは、今年読まれなきゃダメな本です。
IT系のビジネス書、啓蒙書、なんとかかんとか書、読まなくていいです。とりあえず、一度どぶに捨てなさい。先に読むのは、この小説です。
この本で書かれているぶっとい現実を見すえた視点もなしに、IT関連書なんて読んでも時間の無駄だ無駄。くそくらえ。
ということで、この記事はここで終わってもいいのですが、そんなわけにいくか(笑)。
「1000冊紹介する」で、この本のことを紹介したときに、私はうっかりこんなことを書いていました。
リンク: 53冊目『ビッグデータ・コネクト』藤井太洋:[mi]みたいもん!.
このネタはいつかおれが挑戦したかったネタです。うぬう。
ビックデータ・コネクトを読み終わった今となっては、なんて大それたことを言ってしまったんだと反省するしかないのですが、上の言葉を書いたときに、私の頭の中にあったのは、以下のようなことなんです。
それは、いぜん大山顕さんと「楽しいみんなの写真」という本を出版したときに、速水健朗さんが書いてくれたことです。
リンク: 書評『楽しいみんなの写真』いしたにまさき、大山顕 - 【B面】犬にかぶらせろ!.
これら意外にも「ライフログ」の要素が、写真共有サービスと親和性が高いという視点など、いろいろ目を見張るネットの思想が語られる。
本書は、ソーシャルネットワーク時代の写真論という体裁ではあるのだけど、伊藤計劃の『虐殺期間』や『ハーモニー』といった小説を読んだときのような、スリリングな読書体験をもたらせてくれた。 この本、小説とかになんないかね?
この引用の詳細については、以前に速水さんが語ってくれたので、それを文字起こしします。
この本はメディア論で止めて欲しくないと思っていて、この本が描いている世界観というか、写真共有メディアが未来にこうなりますよという想像力のところで、それを設定にした小説とか書いて欲しいと思った。
今、みんながプライバシーと思っているものって、メディア状況とリンクしているので、それが変わると、プライバシーの意識も変わるよねって話をしているじゃない2人とも。
写真がソーシャル化すると写真に対する考え方自体が変わってくるっていうのは、設定の問題で。こういう世界に、例えば(攻殻機動隊の)Stand Alone Complexで言うと視覚素子っていうみんなが見ているもの、目がカメラになっていて、その記憶がデータとして残っていて、それが捜査資料になったりするような世界じゃないですか。
「みんなの写真」で2人が予測しているような世界を舞台にした刑事ものが見たいなっていう感じ。そういう思想書として読みました僕は。
人に言われたことは、鵜呑みにして、できれば実行したいと思っているお調子者なので、この速水さんが語ってくれた形の小説にいつかは挑戦したいと思っていました。
ただ、藤井さんのビックデータ・コネクトは、この速水案を全く別の形でありながら、マスタープランとしては、完全に再現したものとなっているんですよ。もう、ホントびっくりした。
藤井さんと私は偶然ですが、同い年です。
40代半ばという、そろそろいろんなことがわかってくる年齢です。だから、これまでの人生経験などを総動員しつつも、なにかを作るためには、なにかを信じて、それを根拠として、社会と向き合うことを求められます。
藤井さんは、物語の力を信じて社会と向き合おうとしているんだと思います。
そして、私は、そんなことは一度も考えたこともなかったけど、個人の生活改善を信じて社会と向き合おうとしているんだと思います。
藤井さん、そんなことを考えさせてくれて、本当にありがとうございます。心からお礼を言います。
そして、最後にもう1回。
いいから、今すぐビックデータ・コネクト読め!この野郎!
ええ、まちがいなく今年のベスト本です。これ以上の本を私が今年読むことを全く想像できません。絶賛絶賛大絶賛。
▼kindle版ビッグデータ・コネクト (文春文庫)
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投稿:by いしたにまさき 2015 04 20 10:30 AM [書評] | 固定リンク
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